先日、WIW(World Interiors Week 2016 in JAPAN)というデザイン関連イベントの枠組みで催された「JID 海外インテリアレポート/INTERIOR DAY」というトークイベントをご拝聴させて頂きました。
マルセイユのユニテ・ダビタシオン(ウィキペディアより)
登壇者とテーマは下記の通り。
□島綾子(建築家)
「コルビュジェのユニテ・ダビタシオン・ベルリン。住んでみてみえてきた今の姿」
□安多茂一(JID会員)
「海外インテリアトレンドの行方~建築・アパレルとの関連」
二つとも興味深い話で、前者(島綾子さん)はル・コルビュジェが今から60年近く前に設計したユニテ・ダビタシオンという名前の集合住宅を、現在の住まい手が様々にリノベーションして住んでいる様子を事例を交えて紹介。
後者(安多茂一さん)は、今年のミラノサローネを基軸に、今年のインテリア業界のトレンド紹介と、インテリア業界のトレンドとファッション業界のトレンドとの関係性。また、安多さん自身の分析によるトレンドの過去と現在と未来への展望が語られました。
全く関連性のない二つのテーマなのですが、この二つを関連付けて考える事によって考えさせられる事がありました。
それは「住まいとトレンドの距離」という事。
インテリアやファッションにはトレンドがあって、それは供給する側がモノを売るために意図的に作り出している事が殆どです。次から次に新しいものを提案し、それを購入してみらう事で利益を得るビジネスモデルだからです。
インテリアやファッションは毎年のように買い替える事ができますが、住まいはそうはいかない。
一度建ててて(購入して)しまった住まいを、トレンドに合わせて毎年のように模様替えする事は、よほどのお金持ちで住まいのトレンドを追いかける事が好きな人でない限り無理でしょう。
そうすると、住まいの場合はロングスパンでのトレンドを意識したデザインが要求されるわけです。
しかし、トレンドの波は毎年のように押し寄せてくるわけで、最前線のトレンドでデザインしたつもりの住まいも、完成した翌年にはなんだか時代遅れのように思えてくる。
それでは困るわけです。
だから、僕たちが設計する住まいはできるだけトレンドに左右されない普遍的なデザインを心掛けるようにしています。
しかし、全くトレンドを無視するのもなんだか寂しい。その距離感が非常に難しいわけです。
ところで、築60年も建つユニテ・ダビタシオンの住まい手達は、オリジナルのデザインもまま住まう事をせず、さまざまにリノベーションして住んでいる。これもまた事実。
ただ、リノベーションといってもその骨格は変更せずに表層を変更しているでけで(或いは古くなってしまった設備の変更)、住まい(建築)のもつ本質には手をつけていない。
つまり、築60年も建つユニテ・ダビタシオンを建て替えようとはならない。ここが最も重要なポイント。
きっと、住まい(建築)のもつ本質的な部分…自然との関わり方であったり、人々が共同で住まう事に必要な要素、つまり、普遍的な要素には満足しているわけで、満足しているから変更しようとしないのではないかと思う。
思えば、ユニテ・ダビタシオンが建てられた当時、数百人規模の人々が一種に住まう建築物は珍しかったはずで、それは即ちイノベーションだったと言えます。
イノベーションとは「物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。」(ウィキペディアより抜粋)で、平たく言うと「これまでにないもの」。
トレンドと混同し易いのですが、イノベーションとトレンドは明確に違います。
つまり、イノベーションこそが「エモーショナルに働きかける」最大要素であり、毎年繰り返し発表され消費されていくようなトレンドとは違う普遍的なテーマなのではないかと思うのです。
たとえば、携帯電話の世界におけるスマートフォンや、ファッションにおけるUNIQLOのヒートテックなどの機能性衣料は、もはやトレンドを超えてイノベーションだと言えます。
住まいの世界においても、室内に据え置かれたトイレなどは実はイノベーションです。
例えば、豪華絢爛につくられたベルサイユ宮殿でさえトイレ設備がなく、当時はオマルを持ち歩いていたというのは有名な話。また、下水や汚水などのインフラが無かった当時のパリの街は、窓から捨てられる排泄物で非常に不衛生な街だったそうです。
イノベーションになり損ねたトレンドというものもあります。太陽光パネルなどがその良い例です。
本来、太陽の光を電気に変える技術が普及するというのは素晴らしい事だと思うのですが、これに群がる守銭奴達によって陳腐なトレンドと化し自滅してしまいました。
最後に、安多さんが今後のトレンドのキーワードとして「エモーショナルに働きかけるデザイン」と述べられむすびの言葉とされていて、なるほどと思う反面、「エモーション」もトレンドとして消費されていくのか、それともイノベーションとして留まるのか、興味深いテーマとして受け止めたのでありました。