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  • 執筆者の写真S.Ninomiya

ガウディとミースの挟間


新年あけましておめでとう御座います。

新年早々昨年の話で恐縮ですが、昨年は30年来の念願だったバルセロナを訪れる機会を得ました。


モンジェイックの丘から一望するバルセロナの街

目的は建築家 アントニ・ガウディの建築群と、建築家 ミース・ファン・デル・ローエの建築「バルセロナ・パヴィリオン」をこの目で見る事でした。

以前にもこのブログで書きましたが、そもそも建築の道を志すきっかけをつくったのがガウディ、建築の道に進みだしてから強く影響を受けたのがミースでした(ガウディの事)。

言わばガウディが生みの親であり、ミースが育ての親。その2人の建築が混在しているのがバルセロナという場所。

アントニ・ガウディ(1852-1926)はスペイン人の建築家で、バルセロナを拠点として活動していました。だからバルセロナの街中に「サグラダ・ファミリア」や「カサ・ミラ」をはじめ、ガウディの建築が溢れています。一見、孤高の作風に見えるガウディの建築ですが、実はゴシックの文脈上に位置している建築家。


ガウディ/「サグラダ・ファミリア」


ガウディ/ 「サグラダ・ファミリア」の内部


ガウディ/「カサ・ミラ」


ガウディ/「カサ・ミラ」屋上

対してミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)はドイツ人の建築家で、バウハウスの第3第校長を務めていましたが、第二次世界大戦中にアメリカに亡命しその後はアメリカを活動の場としています。バルセロナとの関わりは1929年のバルセロナ万国博覧会でドイツ館として建設された「バルセロナ・パビリオン」を設計しています。

作風はいわゆるインターナショナルスタイルで、鉄とガラスの建築。現在世界中で見られるガラス張りのビルディングタイプはミースがオリジナルといっても過言ではないくらい現代建築に強い影響を与えている建築家です。


ミース/「バルセロナ・パビリオン」


ミース/「バルセロナ・パビリオン」の内部

左手に瑪瑙(めのう)色の大理石、正面奥は暗緑色の大理石、床はトラバーチンという「石材」により構成された空間

建築が好きな方ならご存知だと思いますが、ガウディは装飾だらけのコテコテな建築、ミースは「Less is more」に象徴されるように装飾を排除した建築。ガウディは石の建築で、ミースは鉄の建築。つまり2人の建築は全く真逆の志向です。

しかし、実際に見ると2人の建築の距離は非常に近く、その抱いていたイメージは真逆なのではないかと感じました。

まず、ガウディは装飾、あるいは装飾的な造形が特徴的で、その建築は石で造られているのだけど、実は素晴らしいスチールワークを沢山残しており、そのスチールワークは「神は細部に宿る」というミースを凌駕するほど精緻なディテールと精度でした。


ガウディ/「グエル邸」の門扉


ガウディ/「グエル邸」の門扉ディテール


ガウディ/「グエル公園」の門扉

対してミース。「Less is more」という名言を残し、シンプルの権化のように捉えられているミースですが、実際に見ると材料の使い方は実にコッテリ。慎重に配置された吟味された石材は、シンプルな形態がよりそのコッテリを浮き彫りにし、強くその素材感を主張する使い方をしていると思いました。


ミース/ 大理石に囲まれた「バルセロナ・パビリオン」水盤(小)とゲオルク・コルベの彫刻

水盤の床は黒色のガラスで仕上げられ水が張られている


ミース/「バルセロナ・パビリオン」トラバーチンの壁に囲まれた水盤


ミース/「バルセロナ・パビリオン」水平・垂直・規律

ガラスと石の「独立壁」で「仕切りきらない」事により回遊性を持たせた空間構成

そして、二人の建築を見比べてもう一つ興味深かったのがガラス。実は二人ともかなり特徴的なガラスの使い方をしていました。

例えば、ガウディの「サグラダ・ファミリア」では古典的なステンドグラスという手法を使いながらも、それによって変質した光の見せ方に工夫が感じられます。またカサ・バトリョでは当時としても高価で技術的に難しかったであろう曲面ガラスを多用しています。また


ガウディ/「サグラダ・ファミリア」内部

ステンドグラス越しに陽光が差し込んでいる。ステンドグラスで変色した光が傾斜した天井を照らし美しい色のグラデーションを作っている。


ミース/「カサ・バトリョ」の曲面ガラスが多用された外観。

対して、ミースは形状こそ平面なのですが「透明」「プロスト」「グリーン」「グレー」「黒」と1つの建築に5種類ものガラスを石材と同様に慎重に選択し配置しています。この使い分けは空間の構成と巧妙にリンクしており、実際に建築を訪れるとそれぞれに理由がある事が良く分かります。


ミース/「バルセロナ・パビリオン」内部。正面がグリーン、水盤の床面に黒、左がグリーン、写真では見えませんが、右手に透明、手前にフロストの5種類のガラスが使われている。


ミース/「バルセロナ・パビリオン」フロストガラスの壁

ガラスの透明性ではなく映り込みに着目し空間を増幅させている

ガラスの使い方はそれぞれ違いますが、ガラスという素材への並々ならぬ拘りは共通していて、結果的に真逆に見える建築に至るという結果が非常に興味深く思えました。

ガウディもミースも、これまでに沢山の図面と写真を見て知り尽くしていたつもりでしたが、やはり実際に見ると図面や写真だけでは分かりえない事が沢山ありました。

一見、全く真逆に見える二人の建築ですが、実は空間の構成やフォルムをはじめ、石・鉄・ガラスといった共通のテーマを持っていました。そして、それは二人が生きた時代背景や風俗、経済や技術と密接に関係している事も良く分かりました。


ガウディ/ 幻想的な「カサ・バトリョ」屋上の夕景。

前述のようにバルセロナはガウディの街です、言わばバルセロナはガウディホーム。対してミースにすれば完全にアウェイ。ミースが「バルセロナ・パビリオン」を設計するにあたり、ガウディを強く意識していた事は間違いありません。

しかし、ミースはガウディに真逆の手法で対抗しているわけではなく、自分の生きている時代の特性を色濃く残した設計しているのだと感じました。

よくよく考えると、石・鉄・ガラスという素材はガウディやミースの時代よりもはるか昔からあります。コンクリートだってローマ時代からあります。木材だって同様です。そう思うと現在も殆ど変わりがありません。

ガウディの時代ともミースの時代とも違う僕達の時代において、どのように建築に向き合えば良いのか…。答えをもらいに行ったつもりが沢山の宿題をもらう事なったバルセロナ訪問なのでありました。

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