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執筆者の写真S.Ninomiya

建築家と大風呂敷と所信表明


まず、私事で恐縮ですが先日50歳の誕生日を迎える事が出来ました。建築家の世界で50歳というと、やっと「若手」とか「新人」とか言われる年齢。これからも一所懸命設計をご依頼して頂いた方々に喜んで頂けるような建築をつくっていきたいと思います。

さて、「若手」の僕からすると大先輩中の大先輩となるル・コルビュジェ設計の「国立西洋美術館」が無事に世界遺産として認定されたとの事。


世界遺産に認定された「国立西洋美術館」(ウィキペディアより)

コルビュジェの設計といっても、実際にはコルビュジェの日本人の弟子達(前川國男・坂倉準三・吉坂隆正)の共作である事や、世界遺産と日本の間に生じている摩擦を解決する為の政治的要因が強く後押ししているのではないか?などという憶測もはらんだ認定なので、手放しでは喜べないところではありますが…それでも喜ばしい事ではあります(???)。

ところで、ル・コルビュジェといえばなんといっても「近代建築の五原則」(正確には「新しい建築の5つの要点」)でしょう。

1.ピロティ

2.屋上庭園

3.自由な平面

4.水平連続窓

5.自由な立面

この五原則を華々しく提唱した後のコルビュジェは、この五原則を実践して建築を設計していきます。そして、既に建築家業界において強い影響力をもっていたコルビュジェが提唱したこのルールに則って、沢山の建築家達がこの五原則を実践していくわけです。


「近代建築の五原則」が実践されている「サヴォア邸」

ところが、後期になると「ロンシャンの礼拝堂」のように、なぜかこの五原則を全く感じさせない作風に転じてしまいます。


「ロンシャンの礼拝堂」。五原則の基本理念である「新しい建築」というよりは、ストーンヘンジのような太古の遺跡のような佇まい。宗教建築である事から、その神秘性を太古のプリミティブな形態に、造形の源を求めた結果なのかもしれない。

コルビュジェ自身がこの五原則に飽きてしまったのでしょうか?…真相は分かりかねますが、多分この五原則だけでは解決できない建築もあったという事なのでしょう。

そして、こういう事は建築家業界では良くあります。

つまり、影響力のある大先生建築家が「これからの建築はこうあるべきだ!」と大風呂敷を広げ、その影響下にある建築家達がこぞってその方法論や手法を実践。影響下になくとも、時代の雰囲気で知らず知らずのうちにその影響を受けてしまう建築家も沢山います。

これが建築界の流行を生み出す要因の一つでもあります。

現在進行形で言えば、複雑に絡み合った「屋根」がその対象かもしれません。建築の専門誌をみると、複雑にからみあった屋根形状に力を入れた作品が散見されるはずです。

そして突如、言い出しっぺの大先生建築家が違う大風呂敷を広げたり、或いは、大風呂敷はなかった事のように振る舞い、影響下にある建築家たちが右往左往するという状況に陥ります(因みにコルビュジェの大風呂敷は「近代建築の五原則」以外に「ドミノシステム」や「モデュロール」などがあります)。

本来、建築は長期的な視野にたって思考しなければいけないものだと思います。つまり、毎年様変わりしても構わないファンションとは違うわけです。しかし、建築の世界にも短期的にしか通用しない流行があるのも事実です。

長期的に同じ事ばかりやっていては飽きてしまうのが人間なのだと思いますが、50歳を迎えやっと「若手」「新人」となった建築家の心得として、あらためて流行に流されない建築をつくっていきたいなぁ~と思うのでありました。

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