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  • 執筆者の写真S.Ninomiya

監理業務の重要性


一口に設計事務所の仕事と言っても、その守備範囲は多岐にわたっています。ただでさえ分かり難い設計事務所の仕事内容の中でも、最も分かりにくく、且つ、一般の方に理解されていないのが「監理業務」という仕事ではないでしょうか。 「監理業務」というのは設計図(正しくは『設計図書』)通りに現場が進んでいるかを現場で確認したり、或いは、設計図を元に作成された「施工図」をチェックしたり、法で定められた中間検査や完了検査などの立会、設計図書完了後の各種変更の対応、その他諸々。。。といった具合。設計者が責任を持って、設計図通りに建物が建てられているか見届ける為の業務になります。 中でも重要なのが、前述の「施工図」のやり取りです。一般の方は驚かれるかもしれませんが、実は設計図だけでは建物は建ちません。設計図は、どちらかというと設計の指針を表したり予算を把握する為の資料に過ぎず、実際のモノづくりは、これを元に作成された施工図抜きでは行えません。 例えば、アルミサッシの寸法なども、窓枠と壁の取り合いをデザイン面・機能面から検討したり、その下地や下地の構成、クリアランスの確保や勿論、施工方法などを検討し、電卓を叩きながらミリ単位で数字をはじきだし、加工するアルミサッシメーカーや、実際に現場に取り付ける作業をする職人さん達との情報共有の為に図面化する。これが施工図と言われる図面です。 この施工図も一回描いたら終りというわけではなく、描かれた施工図を元に工務店と設計事務所が意見交換を交わしながら、数度の修正を加えてやっと完成するという過程を経ます。これは、勿論サッシだけでなく、躯体といわける構造体部分や、屋根や外壁、その他ありとあらゆるところが施工図の対象となります。 そして、その施工図の過程で、一度終了しているはずの設計内容を見直し、より良い建築にする為の創意工夫を盛り込む過程でもあります。感覚としては、もう一度設計をやり直すくらいの労力。 そういう過程を経て、やっとクオリティーの高い建築物が完成します。 勿論、建売住宅や規格化されたハウスメーカーの住宅などの場合は、施工図を必要としなくても、流れ作業的にモノが出来る作り方もあるので、全ての建築物に施工図が存在するわけではありません。 このように、図面を作図する設計業務よりも、その後に控えている監理業務の方が建物のクオリティー確保の為には重要なのです。でも、悲しい事にこれがなかなか理解されていないのが現実。だから、提案段階の図面だけ描かせて、その図面を工務店に渡せば建築が出来ると思っている輩が後を絶たない。 実は、数年前になりますが、ウチの事務所にもなんちゃってデベロッパーからマンションの設計依頼があり、設計図が完成した途端に、なんだかんだと難癖をつけて契約解除に至った案件がありました。先方の希望で法廷に持ち込まれ、裁判で白黒付ける事になったのですが、一審で僕達が勝訴。二審も勝訴という完全勝利。まあ、先方は設計料を踏み倒したいだけで、こちらにはなんの過失もないので、当たり前といえば当たり前なのですが。。。 そして厚かましくも、このなんちゃってデベロッパーは、ウチの設計をまるきり左右反転させたマンションを建築するのですが、これがまあ、見るも無残。設計意図が全く分かっていないものだから、様々なところが、ただ経済性や造りやすさだけを追求したデティール。趣味の悪い配色。今後、何十年もその場所に存在するには、あまりにも下品な佇まい。まさに社会悪そのもの。 もし、このなんちゃってデベロッパーが監理業務の重要性を理解していたならば、このような悲劇的な建築は生まれなかった事でしょう。 皆さま、けっして監理業務の重要性をお忘れなく。

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