コストがリスクに直結している事故が相次いで発生している。関越道バス事故と福山のホテル火災だ。前者は運賃の低価格化に拘るあまり運転手の管理にしわ寄せが、後者も同様に宿泊費の低価格化に拘るあまり、避難経路や消火・排煙など設備にしわ寄せが来て悲惨な結果を招いた。 コストを抑える事がリスクに直結した例は以前から沢山ある。食品などもそうだし、家電でもそうだ。我が建築家業界も同様だ。設計料が極端に安い事務所は裏に何かある。工務店やメーカーからのバックマージンは容易に想像がつく。そうしないと経営が成り立たない。 以前、合計2社の指名コンペでお話を頂いた物件で、競争相手の設計事務所が設計料を無料にするというので、クライアントはそちらに依頼する事になった。両社プレゼンテーション後の後だしジャンケンだ。最初から競争相手は設計料無料だと聞いていたらコンペには参加していない。競争相手は設計だけでなく施工も行う会社だったので、施工費に設計料分を水増しして請求するのだろう。。。つまり設計料は無料ではない。クライアントもそれくらい見抜いて欲しいものだと思った。 その後、その競争相手は工事費の着手金を手に入れた直後に倒産した。計画的な倒産だったかは分からない。着手金を支払ったクライアントも気の毒だとは思うが、設計料無料に飛びついた結果だ、自業自得だとも思う。建築計画がどうなったかは知らない。競争相手の設計事務所の代表は、現在はリフォームメインの会社を立ち上げ、芸能人気取りの自己プロデュースを展開し派手にやっているようだ。商魂たくましいというか、呆れてものが言えないというか、また設計料無料に騙されている人が続出していると思うとなんともやり切れない。 安いものが全てダメと言わない(言えない)けれど、度を超すと何かを犠牲にしなければ成り立たない。度を越さずにコストを抑えようとすると、ある一定のラインで止まってしまう。しかし、そこで止まってしまっては価格競争に勝てない。サービスを提供する側はリスクを承知でコストを抑える。サービスを提供される側もその事を良く理解しておくべきだ。いや、実は理解しているはずだ。格安の海外航空券などに対しては「この飛行機、床に穴でも開いてるんじゃないの?」などと冗談めかした会話をするからだ。「安かろう悪かろう」なんて言葉もある。みな良く分かっているはずだ。 だけど、やっぱり安い方が良いに決まっている。わざわざ高い方を好んで選ぶ人はあまりいないだろう。でも、品質や安全性に配慮するにはコストがかかるのだ。今回立て続けに起こった二件の事故をみてあらためて強くそう感じた。
S.Ninomiya